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東京地方裁判所 平成9年(ワ)24755号 判決 1997年12月26日

原告

君島敏夫

被告

笠井收

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  請求

1  被告は原告に対し、一〇〇万円及びこれに対する平成八年三月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告に対し、別紙謝罪文面目録記載の内容文書を原告に手渡せ。

二  事案の概要

1  争いのない事実

本件は、原告が家主を相手に提起した当庁平成七年(ワ)第二一三一七号事件(以下「前訴」という)において相手方代理人を務めた弁護士である被告に対し、前訴において被告が原告の名誉を毀損する準備書面を提出したり、法廷で名誉毀損にわたる発言をしたりなどしたとして、損害賠償と謝罪文の交付を求める事案である。

2  原告の主張

(一)  原告は前訴において、平成八年三月ころ「原告は性格異常」と記載した準備書面を提出し、また、原告の度重なる提訴に関して、法廷で担当裁判官に対し「原告は趣味で訴訟をしている」などと発言し、原告を誹謗し、原告の信用と名誉を著しく傷つけた。

(二)  しかし、原告は合法的手段として国民の権利でもある訴訟を提起していたのであり、前訴の提起に何ら非難されるところはない。

(三)  被告は弁護士という公共性の高い職業に就いていたものであり、常識の範囲を逸脱する前記誹謗中傷はいかなる事情があったにせよ許されるものではない。

被告の前記不法行為に当たる言動は、原告の営業活動を抹殺することを目的としたものであり、いわゆる被告に対する「殺意」があったことが明白というべきであり、相当に厳罰されなければならない。

(四)  よって、原告は被告に対し、早急な名誉と信用回復を求めて、損害賠償と謝罪文の交付を求めるものである。

3  被告の主張

(一)  被告は前訴の訴訟活動において、原告の名誉、信用を侵害するような言動はしていない。

(二)  被告の提出した準備書面に原告摘示のような文言があったとしても、それは原告の度重なる提訴に対し、原告の人格立証の前提として主張したものであり、違法性はない。

(三)  また、被告の右訴訟活動は裁判官同席の弁論兼和解の席でのことであり、原告、その代理人、被告のみが出席している限られた場所であって、原告を誹謗したものでもないし、原告の名誉を毀損してもいない。

三  裁判所の判断

1  訴訟上の準備書面に記載された事実であっても、その内容が名誉毀損に該当する場合には不法行為を構成することがあるのはいうまでもない。

そこで本件をみるのに、前記争いのない事実に証拠(甲一)及び弁論の全趣旨を併せ検討すると、被告は前訴において平成八年三月一一日付準備書面を提出し、その中で「三 被告の異常性格について」との一項目を設けて被告の訴訟提起を非難していることが認められるが、右項全体を検討すると、原告はかねて上階や隣室の居住者の行動等を非難し、これを理由に家主に対し二度の損害賠償訴訟を提起し、いずれも棄却されて新たに前訴を提起するに至っていたという経緯が窺われ、これを踏まえて相手方代理人として、被告は原告が些細なことに託つけては訴訟を提起しているとし、その訴訟提起自体を論難する過程で原告の人格的側面にも問題があることを指摘したものと解される。すると、異常人格という表現自体は穏当を欠くところがあるとしても、右のような応訴の仕方自体を非難することまではできず、右記載をもって名誉毀損を構成するほどの違法性があるとまでは認め難いというべきである。

また、法廷での発言として取り上げる点も、前記認定の経緯に照らし、そのこと自体格別違法、不当と認めるには足りないというべきであり、少なくとも、損害賠償をもってするほどの違法性のないことは明らかというべきである。

2  以上のとおりであり、原告の本訴請求はその余について判断するまでもなく、いずれも理由のないことが明らかであるから、失当として棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官藤村啓)

別紙謝罪文書目録<省略>

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